目の前で、扉がばたんと閉まった。

 あたしを拒絶する扉。

 あたしは目の前に指を広げてみた。おかあさまが何度も褒めてくださった、白く長い指。

 血がこびりついているのだろうか。あたしには見えないだけなのだろうか。

 すう、と息を吸うと、幻のような生臭さが漂ってくる気がした。

 ふと、臭いを消すため、と呟いたツバメを思い出す。

 ―ねえ、ツバメ。煙草の匂いは、血の穢れを掻き消してくれる?

 あたしは、どうしよう。

 金髪は気が付いた。あたしの手が血まみれなのに気が付いた。

 エナメルでも塗ってみる?レースのグローブはどうかしら?とびきり綺麗な赤の。きっと汚れた両手を隠せる。

 すこし楽しくなってわらう。

 働き蟻か何かのような群れを尻目に、またひらひらと駆けて行く。


 ここはどこかしら。どうせお家に帰れないならべつにどこだって変わらないけれど、どうせなら楽しく過ごせるところがいい。

 きっとすぐ冬が来る。

 風は冷たくて、頬が切れそうで、だけど、金髪の部屋のぬるい『正常』からあたしを救い出してくれそうで、愛おしい。

 あたしは徐々に覚醒していく。おかあさまが愛したあたし。我が儘で残酷でコケティッシュなお姫様。

 ポケットにバタフライナイフ。胸に誇り。きらきらしいドレスすら幻視して。

 コワレテルと笑った人がいる。血まみれだと嫌悪した人がいる。

 あたしは華麗に微笑んで、おかあさまみたいに、残酷に残酷に突き立てる。

 …もしかしたら、泣きながら。