「……あの…悠月は泣き疲れて眠ってるので…
代わりに僕が聞きます…
僕は、悠月の彼氏です。」


その医者はニコッと笑って、


「終生の…伴侶…ですか。いいですね。」


「話があるんですよね?
彼女の母のことで…その娘である悠月に。」


「鋭い…ですね。」


「……悠月さんの母親は… 肺ガン…です…
幸い、今のところは他の部位に転移してはいませんので…」


「そう…ですか。
話してくださって、ありがとうございます。」


人の死には…


一度だけ直面した。


悠月の母のように、


「病気」

ではなく、


「交通事故」


だったけれど。



悠月は、きっとこれから、不安な毎日を送るだろう。
辛いだろう。


僕が…支えていかなければいけない。


人の死の辛さを…


悲しさを…


経験したことのある僕が。

病院を出ると、スーツのジャケットを病院の長椅子に置いてきたことに気付く。

そのとき、僕の知り合いの看護士が丁度病院から出てきた。左手には財布を抱えている。


「和のだろ?
病室の前に忘れてたぞ?」

「……ありがとう。」


「話すのかよ。
あの…今日、栗沢先生に言われたこと。」


「どうだろう。
話したかったら話すだろうし、話したくなかったら話さないね。」


「ま、いつかは知ることだしな。
じゃ、今日当直だから、行くわ。
ちゃんと大事にしてやれよ?」


「分かってるよ。」


それだけ言うと、
看護士…峰浦は缶コーヒー2つを抱えて去っていった。



しばらく車を走らせていると、悠月が起きた。


「大丈夫?
かなり長い時間熟睡してたけど……」


「私は大丈夫。
それより…和之…
今から道教えるから…私の実家…向かってくれる?」

「…わかった。」


悠月の案内に従って、車を走らせ、敷地内のガレージに停めた。


そぉいえば…悠月の実家来るの…
初めてだな。