彼に押されて奥へ行くと扉があった。

「開けて?」

恐る恐る開くと中からはすごくたくさんの甘い匂いがした。

「おや?おかえり。お嬢さんはお前のお客さんかい?」

「うん。」

「そうか、そうか。」

おじいさんは嬉しそうに笑って手招きをする。

「お嬢さん、これがアネモネだよ。」

「種………?」

「ごめんね、会長。アネモネって秋に植えて春に咲く花なんだ。」

首を傾げた私にネコっ毛の彼は付け足すように話す。

「……春。」

春じゃ私が家を出る前には間に合わない。

「急げば1月には咲くかもしれないよ?」

何か気付いたのか、おじいさんはニッコリ私に笑って教えてくれる。

「これはお嬢さんにあげよう。」

おじいさんはさらにそう言って、掌にアネモネの種をコトンと置いた。