「ちなみに掃除と洗濯の経験はあるの?」

「ないな」

…やっぱり。

爽やかな笑顔で言われても、心は浮き立たない。

「…じゃあとりあえず、草むしりお願いね」

わたしは草刈鎌と軍手を彼に渡した。

「えっ? 草むしり?」

「そう。ウチの部室の周り、スゴイことになっているから」

野球部の部室はグラウンドの側に立てられたプレハブ小屋。

そこの周囲が草原と化しているのはいただけない。

「草ばかりだと、虫もわくでしょう? 蚊に食われたらイヤじゃない」

「まあそうだな」

彼は軍手と鎌を受け取った。

そのうえにわたしは袋を載せた。

「刈った草はこの袋に入れてね。乾燥させてから捨てるから」

「おう! 任せとけ!」

彼は意気揚々と草を刈り始めた。

「あっ、手元には気を付けてね! くれぐれもケガしないようにね!」

「分かってるって」

そう言いながらも勢い良く刈っていく姿にちょっと不安があるけれど、掃除や洗濯をしなければいけない。

「よしっ! わたしも頑張ろう!」

気合を入れて、部室に足を入れた。