「打ち首はお前楽しんでただけだろう」

「じゃあちょっと試してみようか?」

「え、何を」

 戸惑うりいの前で、晴明は軽く息を吸って、表情を改めた。


「りい。…何があっても俺が守るから。だから、ちゃんと頼って。一人で傷付かないで欲しい」

 のほほんとした笑みを消した晴明の、無駄に綺麗な顔。

 痛いくらいにこちらを見つめる瞳から目が離せない。

 真剣な、表情。

「あっ…あの、自衛、できる、から…」

(あ、あれ…っ?なんで…)

 心の臓が早鐘を打ちはじめる。頭に血がのぼってうまく喋れない。

 晴明は切なげに目を伏せた。

「ね、りい…」

 そして。


 次の瞬間、盛大に笑い出した。

「あー!ごめん限界!!何これ恥ずかしい!りいほんっとに真顔で言ったのこういうこと!?りいってどういう感覚してるの!」

「ーッ、晴明ー…!」

 りいは脱力する。ほっとしたと同時にがっかりしたような感覚。

(…って、待て!がっかりって何だ!!)

 一人で百面相をしていると、ひょいと晴明が顔を覗き込んできた。

 さっきの、今である。

 冷静でいられるわけはなくて。

「…!」

 瞬間的に真っ赤になるりいに対して晴明はにやにやと人の悪い笑顔。

「…で?どう?実際やられてみた感想は」

「…お前、趣味が悪い」

 無理矢理仏頂面を作って答える。

「りいにだけは言われたくない。どうするの超子様。身分違い甚だしいよ?禁断の関係に走るの?」

 晴明はとても、…とてもいい笑顔。

 …とっさに拳が出た自分を、りいは責められないと思う。

(…身分以前に、女子同士だろう!)

 心中でもっともなことを思い、そしてもうひとつ重要なことを思い出した。

 自分の、狩衣を着こなすすらりとした体躯。きつい顔立ち。無駄に固い言動。

(どこからどう見ても男子だ…!)

 そして、恐らく晴明も超子もりいの性別を知らない。

 超子に好意を寄せられても、仕方ない。

 その上…

(待て、私はさっき…男子にああいうことを言われて赤くなっている<男子>に見えていたのか!?)

 それは…かなり、気持ち悪くないだろうか?