「あのね。気付いてたかどうか知らないけど、俺りいに護りの術かけてたんだ」

 …全く気付いていなかった。

 りいは目をまるくするばかりだ。

「前、夜中にあやかしに会ったことあったよね。その時何かおかしいことなかった?」

「…そういえば」

 あのあやかしは、なぜかあまり攻撃して来なかった。

「りいがあれから見えなくなるようなまじないをかけて、ついでに何かあったら俺にわかるようにしてたんだ…だからあのあやかし、様子がおかしかったんじゃない?」

「…知らなかった」

 いつの間にだろう。

 りいは思わず自分の腕を見つめるが、当然何もわからない。

「…ん、お前もしかして、あの大量の文…いや、待てよ、いつぞや私を大した用もなく呼びつけたことがあったな」

 隠すように描かれた文の紋様と、込められた力。わざとらしく叩かれた肩。

 鈍いりいは気付いていなかったけれど――。

 晴明はにっこりと笑った。

「よく覚えてたね。うん、その通り」

「なんでお前はそんなややこしい真似を…」

 思わず眉を寄せるりいに対し、晴明は笑みを崩さないまま説明をはじめた。

「貴族の姫君をさらっていたのはあのあやかし。俺も何度か遇ってるから間違いないよ。どうも市でりいが遇ったのも同じあやかしみたいだったから、襲われたらいけないと思って。…でも、はっきりそう言ったらりいは刀掴んで走ってくでしょ?」

「うっ…」

 部屋の隅で藤影と松汰が深く頷くのが見えた。

 確かに自分でも否定できない。

「…いや、しかしっ!それほど早く分かっていたならなぜさっさと成敗しない!」

 りいの非難に晴明は心外だというように首を傾げた。

「あれ、わかんない?」

「わ、か、る、か!!どうせ私は魂まで筋肉でできているのだからなッ!…いたた」

 実は根に持っていたりいである。

「あーほら、落ち着いて。傷が」

 晴明は苦笑しつつ、

「あのあやかしを、裏で操ってる奴がいる。そっちを叩かないとね」