「…あの」

 りいは枕元にいた松汰に声をかける。

「何?言っとくけど起きちゃだめだからね」

「いや、あの…晴明を呼んでくれないか」


 床に逆戻りになって数刻。

 傷口を開かせた前科により、りいには見張りがつけられている。

 皆忙しいだろうというりいの遠慮は当然ながら聞き入れられなかった。

 晴明はといえば、符を書き足すと自室に引っ込んでいる。

 おかげで遠慮なく服を脱いで手当てができたが。


「起きない、起きないから!伝えねばならぬことがあるんだ!」

 疑わしげな目を向けてくる松汰に、りいは弁解する。

「…じゃあ、呼んでくるけど…藤影、お姉を見ててね」

 当然ながら信用が全くない。

 ちらちらと振り返りながらも松汰が出ていくのを確認して、りいは体を起こした。

 傷口に障らないよう、素肌に巻いた包帯の上からは、単衣を引っ掛けただけである。

 さすがにそんな姿で話をするのもはばかられて、もう一枚とって羽織る。

「っ…」

 それだけの動きで、引き攣るような痛みが走った。

 一碧を追いかけたときは夢中だったものの、落ち着いてみれば走れたのが不思議なほど痛む。

(なんだ、この傷は…)

 それほど大きな傷ではなかった。

 加えて、りいは丈夫な方である。

 本来ならこの程度の傷にここまで苦しめられるはずはないのだ。


「…瘴気を注がれてたからね。きちんと手当てしなきゃ全身蝕まれてたよ」

 悩むりいに突然答えが返ってくる。

「晴明っ?お前っどうして」

「どうしても何もりいが呼んだんじゃないか」

 狼狽するりいに、晴明は呆れた様子である。

「いや、そうだがっ…なんで私が考えていることを」

「口からだだ漏れ」

「うぐっ…」

 一体自分はどこから口に出していたのだろうと頭を抱えるりいをよそに、晴明は腰を下ろした。

 後ろから松汰もちょこちょこと入ってくる。