促されるまま粥に口をつけると、忘れていた空腹が蘇ってきた。

 思わず二口、三口と箸が進む。

 傍らで真鯉もほっとした様子だ。

 そしていつも通り味も素晴らしい。ただ米を炊いただけで何がこんなに違うのかと不思議なほどだ。

「こんなときにも…腹は空くのか」

 思わずつぶやいた自嘲のような独り言に、真鯉が優しく微笑んだ。

「こんなときなれば、ですよ。どんな人でも、どれほど辛い時があっても、皆が与えられた天寿を全うしてこそ、この世は回っているのです。食べることは生きること。何らやましいことではありません。わたくしは精霊ですから食事はとりませんが…」

 ふと、遠い目をする真鯉。

「…昔、主様にも同じことを申し上げたことがあります」

「…え?」

「いえ…出過ぎたことを申しました」

 真鯉はそっと目を伏せた。


 しばしの沈黙を破ったのはりいだ。

「その…実は、私の、主が…」

 散々心配をかけたようでもある、言っておかねばと震える声を搾り出すと、真鯉が軽く制した。

「…存じております」

 松汰も気遣わしげにりいを見上げている。

「すみません、聞くつもりはなかったのですが、…ひどくうなされていましたし、主様からも、お辛い目にあわれたとだけは聞いておりましたから、それとなく…お許しくださいませ」

「そんな!気になさらないでください、隠すことではないのですし!」

 慌てて首を振るりい。

 ふと、真鯉の言葉に思い出すことがあった。

「…そういえば、晴明は」

 先刻は晴明に謝らねばと意気込んでいたのである。

「晴明お兄なら仕事に行ったよ」

 松汰が答えた。

 また忙しいんだって、と付け加える。

「そう…か」

 何故か面白くない気がして、りいは軽く眉を寄せた。

(…なんとなく、いるような気がしたのだがな…って何を甘ったれたことを考えているんだ私は…)


 りいが自己嫌悪に陥りかけていた時である。

 また足音がこちらに向かってきた。