頭が酷く痛んだ。

 もう一度意識を手放したいという欲望を無理矢理押さえ込んで目を開く。

 見慣れた天井があった。

(…ええと…私はどうしたのだろう)

 痛む頭を懸命に動かしていると、眼前に何かが突き出された。

 白と黒のつややかな羽毛。

「藤影…」

 藤影がりいの顔をのぞきこんでいた。

 主人が目を開けたと知るや、喜びの声をあげ、頬に嘴をすりよせてくる。

 りいはそっと手を伸ばして羽を撫でてやった。

 そしてはじめて、自分が清潔な単衣に身を包んでいると気づく。

 その上、頭だけではなく右肩にまで鈍痛が走った。


 痛みを自覚した途端、記憶が戻ってきた。

 藤影を撫でる手が強張る。

 我慢も空しく、涙が零れていった。

 藤影は、しばし首をかしげていたが、やがて慰めるように寄り添ってきた。

「…ありがとう、藤影…」


 幼いころからずっとりいのそばにいてくれた、この心優しい鳥のあやかしも、いつか道満から贈られたものであった。

 それを意識するとますます悲しみが込み上げ、嗚咽が漏れそうになって歯を食いしばった。

「…藤影、道満様が…」

 藤影は、全て悟った様子でただりいに身を寄せていた。

 少しの間、りいは静かに涙を流し続けた。


(…そういえば、晴明は?)

 まだ軽く鼻をすすりながらも、晴明が助けてくれたことを思い出す。

 ついでに、彼に縋り付いて泣きわめいたことも。

(錯乱して…ああ…なんという見苦しいところを…)

 今更ながらりいは真っ青になる。

(と、とにかく、礼を言わねば)

 意識がはっきりするにつれ痛みも増してきた体を鞭打って、なんとか起き上がった。

 思わず呻きを漏らすりいの耳に、誰かの慌てた足音が聞こえた。