まだずっと幼かったころ、りいは一族の子供たちが皆そうであるように、播磨の隠れ里で育てられていた。

 両親は道摩の者として旅をしながら仕事を続けていて、里に戻って来ることは少なかった。

 それもまた、里では当然のことだった。

 世話役の老人や他の子供たちがいたから特に寂しいとも感じなかったし、むしろ優秀な術師である両親が誇らしかった。


 けれど。

 両親が亡くなったと聞かされたのは、りいが七つになった頃。

 呪詛に失敗したのか、あやかしに殺されたのかはわからない。

 何か余程のことがあったか、里は大騒ぎになった。

 りいがまだ幼かったからというだけではなく、長じてからも大人は皆禁忌のように何も語ってはくれなかった。

 その態度から、何か事情があることだけは察していた。


 りいを取り巻く状況は一変した。

 何度も難しい顔をした大人たちの会合に連れ出された。

 内容を理解していたとは言い難い。

 それでも、これからは幼くとも一人前の法師として生きていかなくてはならないのだということは漠然と悟った。


 りいは決して悲しみを見せなかった。

 つねに毅然と立ち、時に隠れて涙をこぼした。

 気が触れたかのように修業に打ち込んだ。

 方術の才覚が平凡なものとわかると、里の者はふつう補助としてしか使わない体術や剣術に手を出した。

 小さな唇を噛み締めて剣を振るい、術を磨き、体を鍛えた。

 自分の力で戦えなくては。自分を守れなくては。


「利花」

 ある日、大きな手でりいの頭を撫でて、笑った人がいる。

「強がんじゃねえよ」

 周囲を拒絶するりいを連れ出してくれたその人。

 りいの手を引いて、外の世界に旅立ったその人は。