それは不思議な眺めだった。

 今日も下ろしっ放しの晴明の髪が、毛先から金色に染まっていく。

 差し込む夕日のせいにしては、ひどく鮮やかな色だ。

 りいは固唾を飲んで見守る。


 突如として、晴明から奔流のように力が溢れ出た。

 呪力で片付けるにはあまりに強すぎ、妖気というには清浄すぎる。

 その力の強さにりいは眩暈を覚える。


 あやかしの力に呑まれかけていた万尋も、晴明の力には恐怖したらしい。

 数歩後ずさると、そのまま走り去った。


 晴明が息をつく。

「あー…かなり理性が飛んでたな。あのまま鬼にならないといいけど」

 どこか呑気なその言葉の調子。

(晴明だ…)

 急激な安堵が押し寄せ、りいは思わずその場に崩れ落ちた。


「…せい、めい…」

微かな声に、晴明が振り向いた。

「りい。あんまり無茶しないでって…え!?」

 晴明が驚いて目を見開く。

「ちょっとどうしたの!?痛い?肩痛いの!?」

 焦ったような声に、初めて肩を怪我したことを思い出す。

 首を振って、なんとか流れ出る涙を止めようとするが止まらない。

「晴明…道満様が、…道満様が、ど、道満、様がッ…」

 混乱と悲しみと悔しさと、様々な感情が押し寄せてきてあとは言葉にならなかった。


 ぼろぼろと涙をこぼし続けるりいの背に、晴明がそっと腕を回した。

 りいは晴明の肩口に頭を預ける格好になる。

 悪いとは思いつつも、晴明の装束に涙が次々染み込んでいく。

「…せ、晴明っ…すまな、…ッ、道満様が…道満様、道満様っ…」

 りいは晴明の腕の中で激しくしゃくり上げた。

 壊れたかのようにひたすら「道満様」と「晴明」を繰り返す。

 晴明はそっと息をつくと、りいの耳元に唇をよせた。

「…ごめんね」

 その意味を考える前に、耳から晴明の紡ぐ呪文が滑り込んでくる。

 術をかけられたのだと理解した瞬間、りいは意識を手放した。


 最後に見たのは、黄金に染まった晴明の髪。

 闇に沈む思考の中、なぜかいつかの妖狐を思い出した。