「正解だ」

 万尋は何が楽しいのか声をあげて笑い始める。

「そう。この中にあやかしを飼ってるんだよ、俺はな」

 そう言って真っ赤な瞳を指差してみせる。

「何故っ…そこまで…そこまでして道摩の長の地位が欲しかったのか!!」

 りいの声は殆ど悲鳴に近い。

「否」

 万尋は迷うこともなく即答。

「俺は強くなりたかった。長の地位じゃねえ、強さの証明が欲しかった。さっき言ったろう、無能な奴は大抵方術にこだわってさっさと死んでいく」

 そこで万尋のにやけた表情が初めて消えた。

「そうでないのがお前と俺。お前は自分の適性を活かせる体術に走った。俺は自分の適性を変えた」


 りいは昔見た万尋を思い出す。

 まだりいが旅を始める前だから、もう何年も前のことだ。

 万尋はまだ少年だった。

 当時の万尋は、決して、飛び抜けて優れた術師ではなかった。

 少なくとも、道満を倒すことなどとてもではないができなかったはずだ。

 だが、自尊心だけは高かったようで、術に失敗しては周りに当たり散らし、結果的に万尋は孤立していた。

 その後の万尋をりいは知らないが、今の万尋を見る限り、彼の言葉は真実なのだろう。


「…利花、だから俺はお前が気に入ってる。俺とお前は似ているんだ。なあ、共に来い」

 万尋が笑みを消したままで言う。

 その声音にはふざけはない。


 りいは真っ直ぐに万尋を見つめたまま刀を構え直した。

「…断る。私は貴方とは違う。貴方の従者にはならない」


 万尋は一瞬顔を歪めた、ように見えた。

 しかし、その表情はすぐに嗜虐心にまみれた笑みにとって変わる。

「…いいぜえ、なら…予定通り力尽くで連れていくまでだ!」