りいは、河原の足場の悪さをものともせず駆けた。

 低い姿勢から刀を振るう。

 万尋は身を捻って初太刀をかわしてしまうが、気にかけずに切り込み続ける。

 りいは深くは打ち込まない。

 いくら女子にしては力が強いとは言え、やはり男子に比べれば己は非力だと知っているから。

 だから、速さを生かして手数で追い詰める。

 数回切り込んでは素早く身を引き、角度を変えてまた切り込む。

 その目にも止まらぬ斬撃を器用にかわしながら、万尋はまたにやりと笑った。

「方術を使えねえ異色の道摩法師…か」

「…それが、どうしたっ」

 りいも攻撃の手を休めないまま応じる。

「俺はお前を気に入ってんだよ…大抵の無能な奴は方術にこだわってすぐ死んでいく。だがお前は、」

 一瞬その視線にはこれまでと違い純粋に好意的かものが混じるが、りいは気づかない。

「私は!道満様に救っていただいたんだ!それを無駄にしてたまるか!方術で生き残れないなら体術で生き残るまでだッ!」

 りいの渾身の一撃を万尋はかわしきれない。

 刃は浅く頬を傷つけ、前髪をばっさりと持って行った。

「…ってェ…」

 万尋は口元に垂れてきた血をちろりと舐めとる。

 前髪が無くなったせいで表情が良く見えた。

 いまだにやつきを貼り付けたその顔。

 その中でぎらぎらと輝く二つの瞳を見た瞬間、りいは身を強張らせた。


 …本来そこに有るはずのない色。

 以前は黒かったはずの万尋の瞳は、今、鮮血のような赤に染まっていた。

 そして、そこから感じる非常識なほどの呪力。

「あ…ああ…」

 本能的な恐怖に、りいの身体が震え出す。唇から意味のない呻きが漏れる。

 そして、理解した。

 なぜ、道摩の長たるに相応しい手練(てだれ)の道満が負けたのか。

「…禁術に…手を出したな…!」