晴明が一体何を考えているのかわからない。

 わからないが、りいは晴明と保憲に連れられて藤原様という貴族の屋敷にやって来ていた。

 りいの想像した通り、その屋敷は安倍邸の隣のやたらと大きくてやたらと華麗な屋敷だった。

 そもそも、政情に疎いりいでさえ名を知っている大貴族である。

 巨大な門を見るだけでくらくらしているりいをよそに、二人は慣れた様子だ。

「また庭の木を植え替えたようですね」

「そろそろ皐月だからな」

 案内(あない)の者に通された一室。

 二人は感心とも呆れともつかない表情で庭の花を評している。

「いつもながら風流も行き過ぎだと思うんですよね」

 肩を竦める晴明に、その点だけは諸手を挙げて同意したいところだ。

 …花、どころか、木を植え替える、と。

(庭木とはそんなにほいほい植え替えるものなのか…?)

 風流というものはさっぱりわからない。

「これ。そういうことを口に出すな」

 保憲が晴明を横目で睨む。

「だいたいお前は役人としての自覚が足りん」

 まったくその通り、と言うしかない正論だ。

 この時とばかり説教を始める保憲であった。


 りいはそんな二人を眺めていたが、ふと人の気配を感じて振り返った。

 衝立(ついたて)の影からこちらを覗いている少女と目が合った。

 その瞬間、彼女は決まり悪そうにさっと頭を引っ込めてしまう。

 年の頃なら、りいや晴明よりふたつみっつ下に見えた。

 童と呼んでよいか迷う年である。

 手入れのいい黒髪は長く、ちらりと見えた衣はあでやかで上等なものである。下働きの女童(めのわらわ)とも見えなかった。

(…なんだ?)

 気になってなおも見つめていると、また、そろりと顔を出す。

 一体何なのかわからないが、こちらを相当気にしているようだ。

 りいは迷いながら声をかけた。