やはり晴明に話してみるべきか…それを迷う必要はなかった。

 晴明からじきじきに呼び出されたのである。

 断る理由も特にない。りいは内裏に向かった。


 二度めながら、内裏の立派さには気後れしてしまう。


 陰陽寮の入口で取り次ぎを頼んでいると、若い陰陽師が通りかかった。

 たくさんの書類を抱え、見るからに忙しそうである。

 その有能そうな横顔に、どこか見覚えがある。

 誰だったか、とりいが思案していると、相手もりいの視線を感じたのか立ち止まった。

 なんと、こちらに向かってくる。

 不快に思われたのか。りいはどぎまぎと下を向いた。


「君は、晴明の…」

 聞こえてきた名前に、がばりと顔をあげる。

 そして思い出した。

 切れ長の瞳に、通った鼻筋。涼やかな顔立ちは優男めいているが、どこか謹厳さを醸し出す、固い雰囲気。

 前回晴明と話していたあの若い陰陽師だ。

「話すのは初めてだな。私は賀茂保憲という」

 彼…保憲は意外なほど気さくに名乗った。

 萎縮していたりいも、少し力を抜く。

「…これは失礼をいたしました。私は安倍邸に厄介になっております。名は、り…」

 りいも名乗ろうとしたところで、思わぬ邪魔が入った。

「…保憲兄さん?」

 外ならぬ晴明の声だ。

 保憲とりいは揃って振り向く。

「俺、丁度手が空きましたから、手伝いましょうか…あ、りい。早かったね」

 晴明が目を丸くして立っていた。

「いや、私のほうももう終わりだ。…行ってくるといい」

 保憲はゆるりと首を振って、立ち去った。りいに軽く目礼を寄越す。

 実直そうな態度に、りいは好感を覚えた。


「…まあ、じゃあ表に出ようか」

「ああ」

 晴明に促され、りいは頷いた。

 こちらもいろいろと聞きたいことがあるのだ。

(…今日こそ聞き出してやる)