「姫君が?…それは…」
「なんでも、まだ小さい姫さんが神隠しにあってるらしい」
「俺らもそこまで詳しくないんだが…もう3人は連れていかれてるって話だ」
「今頃は喰われてるんじゃないか…恐ろしいことだよ」
男たちは顔を見合わせて、ぶるりと身震いしてみせる。
「…さて、そろそろ行かんと」
「物騒だからな、坊主も気をつけろよ」
ぽんぽんとりいの頭を叩いて、男たちは歩き出した。
「ありがとう存じます」
りいは遠ざかるふたりに頭を下げた。
晴明が言っていた事件はこれだろうか?
りいは貴族には疎いが、それにしても大臣の姫ともなると大事だということくらいわかる。
しかし、それがりいの逢ったあやかしと関連しているのか、どうか…りいは悩む。
晴明に相談してみるべきか?しかし…勝手に夜遅く出歩いてあやかしに殺されかけた、などとは…
(…言えぬな)
肩を落とした拍子に、どこをどうしたのだか、籠から蕪が転げ落ちた。
りいは慌てて手を伸ばす。
値切って手に入れた見事な蕪だ。真鯉が見れば満面の笑みを浮かべると思われる。
何より自分の努力を無に帰すわけにはいかない。
…だが、りいの指は空を掻いた。
(踏まれる…ッ)
毎度ながら市は人で賑わっている。地に落ちた蕪が踏み付けられて砕ける様は想像するまでもない。
「ちょ、踏まないでくれ…ああー!」
蕪を拾おうと屈んだ途端、籠から他の食材までこぼれた。
市の真ん中で籠の中身をぶちまけた形だ。りいは蒼白になる。
だが、逆にそれが幸いした。
派手にやらかしたため、周りが足を止めてくれたのだ。
「大丈夫か、ほら」
「気をつけろよ、小僧」
呆れ混じりに、次々拾った食材を差し出される。
「面目ありませぬ…かたじけない、…ありがとうございます」
りいは礼を言いながら、急いで自分でも拾い集める。
(…これで全部か?)
ようやく大方拾い終え、籠の中を確認した。海藻、真魚、菜…塩の包みも奇跡的に零れていない。
が、肝心の蕪がなかった。
「なんでも、まだ小さい姫さんが神隠しにあってるらしい」
「俺らもそこまで詳しくないんだが…もう3人は連れていかれてるって話だ」
「今頃は喰われてるんじゃないか…恐ろしいことだよ」
男たちは顔を見合わせて、ぶるりと身震いしてみせる。
「…さて、そろそろ行かんと」
「物騒だからな、坊主も気をつけろよ」
ぽんぽんとりいの頭を叩いて、男たちは歩き出した。
「ありがとう存じます」
りいは遠ざかるふたりに頭を下げた。
晴明が言っていた事件はこれだろうか?
りいは貴族には疎いが、それにしても大臣の姫ともなると大事だということくらいわかる。
しかし、それがりいの逢ったあやかしと関連しているのか、どうか…りいは悩む。
晴明に相談してみるべきか?しかし…勝手に夜遅く出歩いてあやかしに殺されかけた、などとは…
(…言えぬな)
肩を落とした拍子に、どこをどうしたのだか、籠から蕪が転げ落ちた。
りいは慌てて手を伸ばす。
値切って手に入れた見事な蕪だ。真鯉が見れば満面の笑みを浮かべると思われる。
何より自分の努力を無に帰すわけにはいかない。
…だが、りいの指は空を掻いた。
(踏まれる…ッ)
毎度ながら市は人で賑わっている。地に落ちた蕪が踏み付けられて砕ける様は想像するまでもない。
「ちょ、踏まないでくれ…ああー!」
蕪を拾おうと屈んだ途端、籠から他の食材までこぼれた。
市の真ん中で籠の中身をぶちまけた形だ。りいは蒼白になる。
だが、逆にそれが幸いした。
派手にやらかしたため、周りが足を止めてくれたのだ。
「大丈夫か、ほら」
「気をつけろよ、小僧」
呆れ混じりに、次々拾った食材を差し出される。
「面目ありませぬ…かたじけない、…ありがとうございます」
りいは礼を言いながら、急いで自分でも拾い集める。
(…これで全部か?)
ようやく大方拾い終え、籠の中を確認した。海藻、真魚、菜…塩の包みも奇跡的に零れていない。
が、肝心の蕪がなかった。


