だが、ゆっくりと考えこんでいる暇はなかった。


(…この気配!?)

 りいは背筋が粟立つような感覚に身を強張らせた。

 相当に強い陰の気だ。かなり近い。

 りいはそこまで鋭いほうではない。藤影を晴明のもとへ飛ばしてしまっていたため、気付くのが遅れたのだろう。

 歯噛みしながらも、愛刀をつかんで飛び出た。

 符を書いている間に、すっかり黄昏どきである。あやかしが活動を始めてもおかしくない時間ではあった。

 気配は、朱雀大路の、都の外方向に感じられた。

 ひとまず内裏でなくてよかったが、安心もできない。りいは駆けた。

 近付くに連れて、あまりの妖気に気分が悪くなる。

 思わずたたらを踏んだところに何かが落ちてきた。

 小鬼である。奇怪な外見のわりに普段は大人しいはずだが、様子がおかしかった。

 気配はこの先から漂ってくる。

(…妖気のせいで狂暴化しているのか)

 頭の片隅で冷静に考えながらも、襲い掛かってくる小鬼を鞘に入ったままの刀でさばく。

 小鬼が一旦距離をとった瞬間、りいは抜刀した。その勢いを殺さず切り付ける。ほとんど閃光にしか見えないほどの斬撃だった。

 それだけで勝負はついた…はずだった。

 先を急ごうとするりいの前に、また何体も小鬼や小妖怪が降ってきた。時刻が逢魔が刻ということもあるが、やはりこの強い妖気に影響されているのだろう。

「はた迷惑なっ…!」

 つい嘆息が漏れた。

 とにかくこのままでは埒があかない。

 りいは懐を探って、先程描いた破魔の符を取り出した。