うららかな午後、りいは軒端で刀を振るっていた。

 そこに薄紅色の小鳥が飛び込んできたかと思うと、きちんと畳まれた文に姿を変えた。

 考えるまでもなく、晴明が術で文を送ってきたのだとわかる。

 あのあと、宣言通り、晴明からは毎日文が届きはじめた。

 大抵は、変わったことはないか、とか、気をつけて、とか、まだ帰らない、とか、他愛もない内容であり、文を書く文化を持たないりいからすると少しばかり辟易してしまう。

「…よくもまあ、毎日毎日こんなに書くことがあるな」

 ひとりごちて、部屋の隅に積んだ文の上に、今日の分を重ねた。

 当然のように返事は書かない。最初は「よみました」一言程度は書いていた。だが、よく考えたら、藤影を飛ばせばそれだけでりいが読んだとわかる。それですむ話だ。

 晴明が歌というものを書いてこないだけまだ救いである。りいには返歌どころか意味すら覚束ないだろう。全く、都の文化というやつは…

 大体、紙にしても何をそんなに凝る必要があるのか。

 白い薄様(うすよう)の文に、紅梅や山吹の紙を重ねた形式は、珍しいものではないのだが、やはりりいにとっては無駄以外の何物でもない。

 二枚重ねにするくらいなら、最初からしっかりした紙に言いたいことをびしっと書いて送ればいいではないか。紙は高価いのだ。りいなど、符を書くにすら事欠く有様なのである。

「…ん?」

 ふと気付いて、りいは部屋の隅を見遣る。

 そこにあるのは、重ねた文。

 …紙、だ。