「では、お願いいたします。…あの、本当に大丈夫ですかしら。誰か護衛につけましょうか?頼んだものは重過ぎないかしら…」

 目の前で頬に手を当てて心配そうな顔を作る真鯉。

 りいは思わず苦笑した。

「いや、ただ市に行くだけですよ。私は力もありますし大丈夫です。…藤影もいますから」

 懐で、藤影を封じた木札が動いた。

「…なら、いいのですが…お気をつけて」

 いくらりいが主人の客人とはいえ、どうやら相当な心配性らしい。

 わざわざ外まで見送りに来た真鯉に会釈して、りいは市を目指した。


「ええと…蕪に、干し魚に…、海藻、酒。川魚があれば買ってきて下さい…と」

 言付けを復習しながら歩いていく。

 市は活気に溢れている。

 様々なものが販がれている為、京中から多種多様な人々が集まっているのだ。


 りいは、溢れかえる人に数回ぶつかりながらも、特に問題なく買い物を済ませる。

 晴明お下がりの中でも比較的地味な狩衣に括袴、というりいの服装は、見かけだけならそこそこの貴族の下働きの少年、といった風である。我ながら市に溶け込んでいたし、商人たちも『若い下働き』に好意的だった。

「…これで全部か」

 背負い籠の中を確認していると、突然懐で木札が暴れ出した。

 りいは驚く。

 藤影は賢い。こんな雑踏の中で騒ぎ出すなど滅多にないことだ。

 あたりを見回すが、これといって変わったところはない。

 そもそも人だらけで、原因を探すどころではない。

 藤影は一体何を感じとったのか…りいは首をひねった。

 まさか白昼堂々あやかしでもあるまい。

 気配を探ってみようにも、生憎とりいの感覚はそこまで鋭くはない。

 …となると、ここにいても仕方ない。買い物も終わっていることだしと、足早に市を後にした。


 人混みを抜けると、りいは急いで人気のないほうに向かう。

 目についた路地に飛び込み、藤影を顕現させた。