居候とは暇なものだ。

 家事を取り仕切っている精霊達に何か仕事をくれと頼んでみたのだが、客にそんなことはさせられないと断られてしまった。

 晴明も保名も夕刻まで帰らないし、暇を甘受してのんびりしていられるような性格でもない。

 暇にあかせて庭で剣術の稽古などしてみるが、どうにも時間は潰しきれない。

「あー…暇だ」

 道満のお目付け役はなんと忙しく充実していたことだろう。

 いつの間にか見ていた松汰がくすくすと笑う。

「りいお姉暇そうだねえ」

「松汰…?ああ…暇でかなわん」

「晴明お兄に頼んでみたら?まあお兄は容赦ないから、こんどは忙しさで目が回っちゃうかもしれないけど」

「…冗談だろう?」

 あの笑顔で無理難題を突き付けてくる晴明を想像して、りいは頬をひきつらせた。…洒落にならない。

 あとで話してみようと決めて、りいは再び刀を振るいはじめた。





「…それで、一日中刀振り回してたの?」

 晴明が驚いたように言った。

 生粋の陰陽師である彼には自ら刀を握って戦うなど理解できないのだろう。

「なあ、暇なんだ。何もしないで居候も嫌だし」

「そうは言っても…家事の大半は式神が済ませてくれるし」

 晴明が眉根を寄せた。

 だめか、と落胆するりい。

 その時、思わぬところから助け舟が出された。

「買い物はどうだ、晴明。いちいち式神を実体化してやるのを面倒がってただろう」

 向かいで夕餉を食べていた保名である。

 余談だが、真鯉の手による料理は大層美味だ。

 りいは保名の提案に一も二もなく飛び付いた。

「私が買い物に行かせていただきます。…いいだろう晴明?私は精霊たちと違ってちゃんと人目に映るぞ!」

「うーん…まあ…暇だって言うなら。真鯉に話しておくよ」


 …結局。仕事が見つかった興奮で、この日も言うのを忘れたのだった。