りいは、膝から崩れ落ちた。晴明の足元にうずくまる。

「一碧様…どうして…」

 流れの外法師。その性質から、道摩法師同士が戦うことも、ないわけではない。

 けれど。

 万尋に狙われるりいを心配して、わざわざ忠告に来てくれた一碧。

 幼い頃からりいを妹のように可愛がっていてくれた一碧と、敵対したくない。

 だが、こんなときに限ってりいの頭はよく働くのだ。

 これまでの小さな出来事が次々に繋がってゆく。 

 結論から目を反らすように、りいは目を閉じた。


「…一碧様、なんだな…姫ぎみを拐かしていたのは」


 例えば、りいが最初遭遇した猿のあやかし。

 あやかし自身の知能のわりに複雑な行動をとったことも、妖気が消えたことも、一碧の式だとすれば説明がつく。

 それから、あやめの言った物騒な臭い、という言葉の意味も。

 そして、一碧の連れであった市女笠の女性。彼女は、りいが市で会った女性ではなかったか。

 今、一碧の、捜し物の依頼、という言葉と、市女笠の女性の、人を捜している、という言葉が完全に対応した。

 捜しているのはおそらく、幼い姫。一碧がいったん京を離れるに当たって、人違いだった姫は全員返されたと…それで、すべての辻褄があう。

「…捜していたのは、まさか、詮子様か…」

 りいは呻く。