―幼い自分が泣いている。

 播磨の隠れ里。故郷である。

 もうずいぶんひとりで泣いていた。

 泣き疲れて、それでもまた涙があふれてくる。

 そろそろ戻りたいが、仲間にこのような情けない姿を見せるわけにはいかない。

 幼くとも自分は一人前の法師なのだから。

 ひとりで生きて行けるのだから。


 …ぐすぐすと鼻をすすっていると、ふいに影が射した。

 びくりと顔を上げる。

「ああ、こんな所にいたか」

 半ば呆れたような笑み。

「お前はなあ…あんまり強がんじゃねえよ。親が死んだんだ、悲しんで当然だろ。…ひとりで泣くな」

 そう言って頭に乗せられた無骨な手の温もりを、自分は決して忘れない。





「…道満、さま…」

 自分の声で目を覚ました。

 目に飛び込んでくる、朝の光。

(夢、か…)

 懐かしい夢を見たものだ。


 だが浸っている暇はない。今は居候の身、寝坊など言語道断である。

 起き上がり、てきぱきと狩衣を身につける。

 帯を巻こうとしたところで、ふと手が止まった。

 そういえば、<あのこと>を伝えていなかった。

 隠しているわけではないが、しかしこんななりをしているのだから気付かれていないだろう。

 しばらく住まわせてもらうのなら知らせておくべきとも思うが…

 だが今さら言い出しづらい。

(どうしようか…)

 りいはしばし思案した。