天一はどこか裏の読めない微笑でりいを見つめる。

「…あの?」

 流石に居心地が悪く、りいは小さく問う。

 途端に天一は破顔した。

「ああ、否、この臆病な仔狐を手懐けたのはどんな者だろうと思ってねえ」

「天一さん」

 晴明の声が飛んだ。その場の温度を奪い尽くすような冷ややかな笑み。完璧な笑顔に見えて、まなざしはどこまでも冷徹だ。りいは思わず唾をのむ。

 だが天一はどこ吹く風、優雅な笑みを返して見せた。

「そんなくだらないお喋りをするために姿を現したわけではないでしょう」

「くだらない?わたしがどれだけ貴方を案じているとお思いかえ?」 

 絶対零度の晴明、受け流す天一。

 見た目には大変うるわしい光景なのに、冷や汗が止まらない。

 保憲も同様に顔色が悪い。胃のあたりをさすっている。


「…まあ、確かにわたしもそれほど暇ではないからねえ」

 ふと、天一の声色から、からかうような色が消える。

「あの小さな姫ぎみは、仔狐の同類さね。守りの術がかかっている。あの道摩如きがおいそれと手出しできる相手ではないだろう」

「え…?」

 りいは思わず聞き返した。

「藤原様は、姫ぎみの入内に影響が出ることを嫌って、詮子姫の力を隠していたのかと…」

 保憲の呟きに、天一が喉の奥で笑った。

「それがないとは言わないがねえ…」