りいはぎょっとして振り返った。

 先ほどまで、この部屋にこんな気配はなかったはずだ。

 こんな、神々しいような気配は…


 そこに居たのは、麗人だった。

 男とも女とも言いきれない中性的な美貌。

 麗人、と呼ぶに相応しい。

 長い髪をゆるく結って、唐風のひだの多い衣装を纏った立ち姿は、息を呑むほど艶やかだ。


 しかし、それがただ人でないこともすぐわかった。

 浅黒い肌にかかる髪や睫毛はきらきら輝く銀色。

 その下の瞳は、紫の宝玉を思わせた。

 何よりも…その霊力。いや、最早神気と呼んだほうが正しい。


「え…?」

 困惑するりいを見て、麗人はふわりと微笑んだ。

 晴明の冷たい美しさとは異なり、優しげな雰囲気が伝わってくる。

 その優美な笑顔だけで、なぜか心の臓がはね上がった。

「ああ…これは失礼を。わたしは…」


「…何しに来たんです、天一(てんいつ)さん」


 天一、と呼ばれた麗人の言葉を遮り、晴明は半眼で抗議する。

 すると天一は、さも可笑しそうに笑みをこぼした。

「何をしにも何も…貴方が困っていたから、助け船というやつで」

「いりません、大体他の方に見つかったらどうするんですか」

「片端から術で意識を飛ばせばいいではないかえ」

 品よく口元を袖でおおって、くすくすと笑いながら、とんでもないことをいう天一。

 どうやらこの麗人も一筋縄ではいかないようだ。

 りいがちらと保憲を見やると、彼も頭をかかえていた。