今度こそりいは固まった。

「…今、何だと」

「え?いや、りいって女の子だけどすごい男前じゃない?って話。俺絶対勝てない」

 晴明は平然とした顔で言う。

「―――!」

 りいは混乱のあまり思わず晴明の口を塞ぐが、特にそんな必要もないことに気づいて慌てて手を離した。

「なっ、おまっ、ちょっ、えっ!?」

 りいの言葉にならない叫びを聞いていた晴明は、のんきに首を傾げた。

「あれ?もしかして隠してた?」

「いや、そうではないが…なぜ知っている!?」

「なぜもなにも…見てたらわかるし。松汰とかお姉、お姉ってよく呼んでるじゃない。まあ…父上とかは鈍いから気づいてないかもしれないけど」

「ああ…うん…」

 言われてみればその通りであるが、ならば自分は何のために悩んでいたのだろうと虚しくなる。


「…私はこんな格好だから、知らないかと」

「最初は不思議だったけど、女の子の服って動きづらそうだからね。りいは動きやすいほうが好きでしょ?」

「…うん…その通り…その通りだ」

 りいは虚しく笑う。

「私は…ずっと悩んでいたのに…」

「うん、俺にばかばかしい悩みとか言えないよねえ」

 清々しい笑みで、晴明が返す。

 完全にやり込められて、りいはがっくりと肩を落とした。


「…さて、そろそろ戻る?保憲兄さんは先に戻ったみたいだし」

 晴明が周りを見渡す。

 たしかに、夕刻が近くなった中庭には人影がなかった。

「ああ。…突然仕事の邪魔をしてしまったし、謝らなくては」

 りいも頷いた。

 …そうしながらも、何かが頭の片隅に引っかかっていた。