松汰と入れ違いに入って来たのは、真鯉である。

 粥を載せた膳を携えていた。

 真鯉はそっと腰を下ろすと、りいに気遣わしげな目を向けた。

「お加減はいかがですか?」

「大丈夫です…ご迷惑をおかけしました」

 真鯉は静かに首を振る。

 りいはまた、目を伏せた。


「…知ってしまわれたのですね」

 真鯉の硬い声がした。

 りいは驚いて顔をあげる。

 真剣な目をした真鯉と、視線がぶつかった。

 真鯉は、いつも穏やかな彼女には珍しく、唇を引き結んでどこか思い詰めた表情をしていた。

 りいはいたたまれない気がして再び俯いた。

 上掛けをぎゅっとつかむ。

(晴明…)

 晴明の秘密を知ってしまった。

 それがとんでもないことだとはわかる。

 だが、自分がどう思っているか自分でもわからないのが、何より苦しかった。


「りいさん」

 真鯉がりいを呼ぶ。

「…主様を、憎まれますか。恐れますか」

(憎む!?)

 りいはぎょっとして再び真鯉を見た。

 千切れんばかりに首を振る。

「そんな…まさか!どうして憎んだりすることがありましょう!晴明は…」

 そこで、ふっと、晴明ののんびりした笑顔を思い出した。

 何度も助けてくれたこと。

 家に置いてくれていること。

 道満を喪ったりいの、そばにいてくれたこと。

 からかわれながらも、晴明との会話は楽しかったこと。

 気付けば、自分の中で晴明の存在はとても大きくなっていた。

 泣きそうになりながら、りいは呟いた。

「晴明は、いい奴です」