「預かる?ああ…僕は一人くらい構わんが」

 夕刻である。

 術比べは庭を散々荒らして終わり、すすり泣きも今はおさまっている。

 一家の主人である保名は、りいを預かる話を二つ返事で了承した。

「おお、さすが話がわかるねえ、助かるよ」

 道満はにっと歯を剥き出して笑った。

「道満様!」

 りいが非難するような目を向ける。


「晴明も構わんのだろう?りい君はどうなんだ」

 突然話を向けられてりいは目をしばたたいた。

「私…にございますか。私は道満様の命に従いますので…置いていただければ嬉しゅうございますが、その、御迷惑でしたら…」

「あー、いいいい」

 保名は手を振って制止。


「じゃあ、決まりだな」

 何故か道満が場を締めて、懐から酒瓶を引っ張り出した。

「土産だ、呑まねえか保名殿」

 保名も破顔する。

「もう、早く寝て下さいね」

 晴明が釘を刺して立ち上がる。

「行こう、りい」


 晴明はそのまま先に立って歩き出す。

 りいも後に続いた。

「しばらくいるんでしょう?」

「ああ、道満様が『山』に篭るからな。…世話をかける」

「いてくれて嬉しいよ」

 晴明が振り返って笑った。

「楽しくなりそうだ」

 人当たりが良さそうだが、どこか謎めいた笑み。目を奪われる。

「あ、ああ…私も、あまり長くひとつの土地に留まったことがないからな」

 なんにせよ歓迎されて悪い気はしない。りいも微笑んだ。

「だが世話になりっ放しは性に合わんのでな。私にできることなら何なりと言ってくれ」