どこをどうやって安倍邸に戻ったのだか、それすらも覚えていなかった。


 気が付いたら、安倍邸の自室に寝かされていた。

 がばり、と跳ね起きる。

 そばに付き添っていてくれたらしい藤影が、そっと身を寄せてくる。

「りいお姉!」

 それから、松汰の声。

 枕元に座っていた松汰が飛び付いてきた。

 その頭を撫でながら、りいは首をひねった。


「…松汰。私はどうしてここで寝ていたんだ?」

「どうしてって…お姉の部屋だよ、ここ」

「いや、それはそうなんだが…」

 歯切れの悪いりいの言葉に、松汰は目を瞬いた。

「りいお姉…覚えてないの?昨日ぼろぼろの真っ青で帰ってきてばったりだよ。真鯉お姉まで卒倒しそうになって大変だったんだから」

 想像するだに大変そうだ。

「それは…すまなかった」

 りいは心から謝る。

 だが、松汰はにっこり笑って首を振る。

「いいんだよー。そりゃあんまりぼろぼろのびしょびしょだからびっくりしたけど、怪我もないし、本当無事で良かった」

 松汰の屈託のない笑顔に癒されながらも、りいの胸に重くのし掛かる現実があった。

 知ってしまった、晴明の正体。

 それより何より、泣き笑いのような表情で姿を消した晴明。


「松汰…晴明は」

「お兄?お兄なら仕事。もうずっと帰ってないよ」

 はきはきと答えつつも、何かを察したのか、松汰の表情がくもる。


 だが、松汰はすぐにまた笑顔を浮かべ、話題を変えた。

「それよりお姉、何か食べられそう?真鯉お姉がすっごく心配してる」

 その気遣いに感謝しながら、りいは頷いた。