りいは瞠目した。

 だが、同時に…ひどく納得したような部分もある。

 あの妖狐に懐かしさにも似たものを感じたわけがわかった。

 晴明が何かを隠していたわけもわかった。

 不思議と恐ろしさはなかった。

 そこにいる妖狐を、ただ、美しいと感じた。


「あの狐の小僧か…また、邪魔しやがって」

 万尋が顔をしかめた。

「りいを殺させるわけにはいきませんから」

 妖狐の口から、晴明の声がこぼれた。

(しゃべれるのか…)

 りいは妙な感心を覚える。

「いいぜ…お前がその気なら」

 万尋は小さく嗤って、その手を目の前にかざした。

 …嫌な予感が、した。

 万尋の赤い瞳が、かっ、と光った。

(まさか…あやかしを!?)

「やめたほうがいい。…貴方、今度こそ、…鬼になりますよ」

 りいの不安は的中したようで、晴明も万尋を止める。


 だが。

「どうせ、散るならよお…鬼にでもなんでもなってやる」

 万尋の声は愉悦さえ含んでいた。


「利花!」


 突然名指しされて、りいの体が強張った。

 万尋は…笑っていた。

 歪んだ笑みだが、同時に、どこか寂しげに。

 りいは息を呑んで見つめた。

「見てろよ…俺は、強い」