「… っ」

 万尋は咄嗟に顔を逸らした。

 その機会を逃さず、りいは地を蹴った。

 高い跳躍から叩きつけるような膝蹴りを放つ。

 反動で距離をとり、体勢を立て直した。

 万尋を欺くために抜いた符はとりあえず唇に咥えておく。


 りいが構える間に、万尋もまた立ち上がっていた。

「やってくれるじゃねえか…利花ァ!」

 その顔にあるのは、純粋な興奮。

 万尋は獣のように歯を剥き出して笑った。


 目潰しと膝蹴りの効果はあまりなかったと見える。

 りいは歯噛みしつつも、周囲に目をやった。

 刀は万尋の手を離れているものの、すぐに拾える距離にはない。

 無理に刀を取りに行くのは危険だ。

 加えて、肩の怪我のせいで右腕には充分力が入らない。

(どうする…!?)

 周りを探り続けるりいの視界に…ふと、光るものが入った。

 西日に煌めく川面。


 りいは一歩一歩後退した。

 万尋もじわりじわりと距離を詰めてくる。

 やがて万尋がすっと手をあげた。

 彼が得意とする、気の弾丸がくる。

 それを予測したりいは、突然方向を変え、万尋に跳びかかった。

 万尋は軽く目を見張ったが、そのまま気を撃ち出した。

 りいの胸…心の臓に向かって。

 それは確かにりいの胸部に突き刺さった。

 りいの唇がくっと弧を描く。

 咥えた符の紅が唇にうつって、凄惨な印象を与えた。


 きん、という硬質な音がした。