「…ほらな」

 どこか得意気な声。

「…やっぱりお前は、そういう奴だよ」

 目に入ったのは、万尋の笑み。

 高揚を隠しきれない、笑みだった。

 赤い双眸が爛々と輝く。


「…っ!?」


 りいはあわてて刀を引こうとするが、動かない。

 確かに手応えを感じた、その切っ先は、万尋の手のひらに深くめり込み…そのまま、しっかりと掴まれていた。

 刃から血が滴り落ちるが、万尋に痛みを感じている様子はない。


 顔色を変えたりいを見て、万尋は満足げに目を細めた。

「ほら…どうする、利花?」

 りいは必死に次の一手を考えた。

 刀はもはや動かせない。

 では、術か。

 しかしそれは読まれきっているだろう。

 万尋は愉しむように言葉を重ねる。

「…ほら、抵抗してみろよ。見せてみろよ、お前が…」

 一瞬、万尋の表情に、ごくわずかな、気づかないほどわずかな翳が落ちた。


「無能じゃねえってことをよォ!!」


 その叫びを合図にしたように、りいは刀から手を離した。

 瞬時に符を抜く。

 当然万尋はその行動を読んでいた。

 万尋も刀を放し、身構える。


 次の瞬間、りいの蹴りが炸裂した。

 地面…河原の、砂利や石ころだらけの地面に。

 狙い過たず、石礫は万尋の顔に浴びせられた。