その年の遠足も、また別の意味で苦い思い出がある。当日の天気は雨かギリギリくもりか微妙な感じで、今思えば何であんな小さな事で悩んでいたのか、友達に電話すれば済む話じゃないかと思うけど、あの日の私はそれを本気で悩んでいた。
 決行か、中止か…
 自分だけランドセルだったら…という恐れ。1年の頃、遠足で自分1人だけ服装が違っていた事がトラウマになっていた。半袖体操服の集団の中で、1人だけ長袖の居心地の悪さは5年たっても忘れられない。
 その結果、逃げの態勢に入ったのである。
 「ほら、お弁当も作ったよ。楽しみにしてたじゃない?」
 突然「行かない」と言い出した娘に、母は戸惑う。
 と、そこに祖母がやって来て、理由も聞かずにいきなりビンタがとんできた。「なんだとぉー!!」と叫びながら、頬を何度も何度も平手打ちしてくる。その目が、虐待する親のような鋭い光を放っていた。
 女は顔が命。私は祖母が尻ではなく顔を狙ったショックと恐怖心で泣き崩れ、ノドに流れ込む血の味で鼻から出血している事に気付いた。母は暴走した祖母を必死で止めようとしたが全くの無力で、結局、その日は不参加が決まる。

 当時はよく祖母に怒鳴られたものだ。祖母は表向き人当たりがいいので、単に“派手でオシャベリ好きなおばさん”としてのイメージが強いが、家族は早くからその口の悪さを見抜いていた。
 私はそんな祖母に「出て行け」と怒鳴られるたび、行く宛もなく家の周囲をうろついては、「いいから入りなさい」となだめる母に、
 「だって、出て行けって言われたもん」
 「いいから入りなさい」
 「出て行けって言われたもん」
 …と、すぐスネて同じ言葉を繰り返し、母もだんだんイラついてきて、しまいには、
 「いいから入りなさい」
 「だって…怒らない?」
 「怒らないよ」
 「本当の本当に? だって、出て行けって言われたもん」
 「もう、いいから入りな!!」
 「うわぁ~ん、怒った(;_;)」
 と、こんな感じだった。いつまでもクヨクヨすねて引きずる所は、生まれつきなのかもしれない。