傷×恋=幸

【千衣】



家は8LDK。



二階にもバス、トイレ付き。



与えられた角部屋は朝日が射し込んで気持ちよく目覚められる。



「おはようございます…」

「おはよう、千衣」

「あたしがやりますよ?」

「いいんだよ、やりたいんだから」



父である良平さんはとてもいい人で、怒ったりはしない。



3年前に離婚し、子どもはいなくてひとり暮らしだった。



あたしがいるから子どもを作らなかったという、なんとも複雑な事情。



雇っていた家政婦さんをやめて、あたしを引き取ってからは朝晩とご飯を作ろうとしてる。



そんな姿を見てるもんだから、良平さんを嫌いになんてなれるわけがない。



似てるかと言われれば、キツメの顔立ちはこの人から受け継いだものらしい。



「あっ、ゴミ出す日だったかな…」

「あたしが行きます」

「すまないね…」



良平さんはあたしの父親になろうと必死だ。



だからあたしも、この人の娘になろうと思う。