「あんたのジュースなんてどうでもいいわよ。ごめんねぇ、唯ちゃん。わたしのわがままでこんなとこまで来てくれて。そうだ!せっかくだし、よかったら撮影見学してかない?」


「いいんですか?」


「もっちろん!」


上原くん好みの綺麗の秘訣が観れるのかもしれないと、わたしは由香里さんの言葉に甘えて撮影を見学していくことに決めた。


由香里さんがスタジオを案内しようとわたしの肩に手を置いて歩き出そうとする。


しかし、その動きは違う腕によって遮られた。


「なに、ワタル?あんたもしつこい男ね。まだわたしたちなんか用あるの?」


由香里さんと男の人は仲があまり良くないのか、由香里さんにしては珍しく敵意剥き出しの目線を向ける。


「…唯?…もしかしてお前、日下 唯?」


「えっ?」


なんでこの人はわたしの名前を知ってるんだろう。


わたしたち、どこかで会った?


いや、こんな綺麗な人、会ったら忘れるはずがない。


「なに、ワタル。あんた唯ちゃんのこと知ってるの?」


わたしの疑問を由香里さんが言葉にしてくれた。


「一條は黙ってて。俺だよ、覚えてない?泣き虫チビちゃん」


その呼び方に幼い頃の記憶が蘇る。


『ヤーイヤーイ!泣き虫チビちゃん!』


わたしをいつもからかってきた小学校時代のガキ大将。


「高井 渉くん?」


「懐かしいな、その苗字。中学上がる前に親が離婚したから今は本城 渉って名前なんだ」


あの頃の面影なんてこれっぽちもないけど、わたしをからかうときのその呼び方。


高井くんしかいない。


「まさか唯ちゃんとあのバカが知り合いだったなんて。世間は狭いね」


「そうですね…」


わたしたちはスタジオの隅に置いてある椅子に座りながら律さん特製のサンドイッチを口にした。