「あたし、優ちゃんになりたい」


かすみちゃんが眉尻をちょっと下げて笑った。


「…いやいやいやいや、僕になっても良いことないよ?むしろ損しちゃうよ…?」



それでもなお、かすみちゃんはゆっくり首を横に振った。




「大桜にまつわる話にはまだ続きがあってね…」



それからかすみちゃんはおもむろに話し始めた。















今の理事長がまだ自分の父親の学校の初等部生だったときのこと。



当時、既に立派な様相を呈していた大桜は、幼かった理事長にとって木登りができるお気に入りの遊び場だったらしい。



彼が4年生のときの春、いつものように大桜に登った。


ふと、彼は大桜の一番上までは登ったことがないことに気づいた。

それというのも、樹の最上部付近の幹は細いため、行かない方が身のためだと木登り仲間のうちでの暗黙の了解だったからだ。



時は夕暮れ。


空にはまだらにオレンジ色や紫色の雲がたなびいている。


町の中でも高台にあるこの学園の大桜から見る夕暮れはどんなに綺麗だろうかと、彼は想像し思わず体が震えたらしい。