春田はハッと息を飲んだが、徹也は少し顔をしかめただけで、あまり応えてなさそうだ。


「殴ったね? じゃあ今度は俺の番だよ」


次の瞬間ヒュッと風を切る音がし、同時にゴツッと鈍い音がして鈴木の体は後ろに飛び、道路に尻餅をついた。


徹也は鈴木にパンチを見舞わせたようだが、春田にはそれが見えなかった。
テニスボールを咄嗟に受け止めた時の徹也を、春田は思い出した。


(福山君の身体能力って、半端じゃないわ…)


「お、覚えてろよ!」


鈴木は、顔を押さえながら変な発音で定番の捨て台詞を残し、よろけながらどこかへ逃げて行った。
発音が変だったのは、前歯が折れたからだった。