春田の腕を掴む鈴木の手に力が加わり、目は凶暴な光を放っていた。


「大声出すわよ?」


「そうはさせねえ」


鈴木が手で春田の口を抑えようとし、春田は(まずいわ)と思い、下を向いて靴の爪先で鈴木の向こう脛(すね)を思い切り蹴った。


「痛え!」


堪らず屈み込んだ鈴木の後頭部をハンドバッグでバンと叩き、春田は走ってその場から逃げ出した。


少し走った所で春田が後ろを振り返ると、鈴木は立ち上がり、春田を追って走り始める所だった。
春田に脛を蹴られた方の足は引きずり気味だが、春田の走る速度よりはやや速いかもしれない。


(ああ、ハイヒールでは走りにくいわ…)