「福山君、授業が終わったわよ?」


(あれ? 先生の声って、こんな優しい声だったか? しかも何か、懐かしい感じがするな…)


「ねえってば…」


徹也は目を開き、春田が差し出す腕を掴むと、ぐいっと引っ張った。春田を脅かしてやろうという、ちょっとした軽い悪戯のつもりで。


ところが春田は、徹也が思ったよりもか弱く、「きゃっ」と小さく悲鳴を上げて徹也の上に倒れ込んで来た。


(あっ…)


(えっ…)


二人の顔と顔は、あとほんの数センチというところまで接近していた。いや、鼻と鼻は完全に触れ合っている。


もし二人のどちらかが、口をほんの少しでも突き出したなら、キスしてしまうくらいに…