「・・・。」
海はまわりに気づかれないように、洋服の袖をそっとまくった。
真っ赤に腫れ上がっている左手を見て、ごくりと喉をならす。
自転車から落ちる際、左手を地面に強打したらしい。
しかし、利き腕ではないだけまだよかった。
しかも遥が庇ってくれたおかげで、ほかに怪我をしなかったのだ。
遥の分も頑張ろうと意気込んだ。
「あ、海ちゃん!」
「冬樹君・・・。」
「遥、大丈夫だった?」
「わからないの、今、病院にいるから・・・。」
ごめんなさい、と海はつぶやいた。
そんな彼女を見て、君のせいじゃないと冬樹は言う。
「今からドリンク作りに行くんだ。
副部長から作り方の紙をもらってきたから、一緒に行こう。」
「うん・・・。」
冬樹は優しく海に接してくれた。
それが逆に、海にとってはつらかった。
合宿所のキッチンを借りて、30個分のドリンクを作っていく。
量はそんなに多くはない。
海は紙に書いてある通りに、材料を容器にいれようとしたときだった。
ズキン、
やはり左手は使えない。
激痛に表情を歪める。
「・・・海ちゃん、」
そんな彼女を見ていた冬樹が声をかけた。
「怪我してるでしょ。」
「っ、大丈夫だよ。ただのかすり傷だったし。」
「・・・。」
冬樹は無言で彼女の左手を掴んだ。
「うっ、」
小さなうめき声をあげた海を気にしつつ、袖をまくりあげる。
そこにはさっきよりも真っ赤に腫れた腕があった。
「っ、重症じゃないか。もしかしたら折れてるかもしれない・・・
今すぐ病院に、「いいの!」
海はばっと冬樹の腕を振り払い、泣きそうになりながら言った。


