「筧と佐々木はタイムの測定。
一人は自転車で走者の後ろをついていくようにしなさい。」
「はい。」「はーい。」
八木の言葉を聞いて、理子は笑顔で海を見た。
「筧さん、自転車頼んでもいい?」
「え、うんっ。」
「まだタイムの測定とか慣れてないからできないでしょ?
あ、自転車はあそこにあるから。」
理子は慣れたように説明をする。
海はしっかりとそれを聞いて、頷く。
彼女に言われた場所にある自転車を運んできた。
すごくボロボロの気がするが、昔から合宿に来たときに使っているものだろうと
考え対して気にしなかった。
それを横目でみて理子は笑う。
(その自転車、前の合宿でブレーキがきかなくなったやつなんだよね・・・
筧さんには悪いけど、少し痛い目見てもらお。)
遥と仲がいいという嫉妬心から、理子の心にはよからぬ考えがあった。
それに気づくこともなく海は礼を言って、
部員がダルそうに並んでいるスタート地点へと向かう。
「行くぞー、スタート!」
部長の永田(ながた)の合図に一斉に走り出す。
さすが剣道部だろうか。
早い。
海は慌ててペダルを踏み、置いて行かれないように必死で自転車をこいだ。
「あれ?佐々木、ここにあった廃棄予定の自転車は?」
「え?ないんですか?」
八木に問われ、理子は自然を装う。
「もしかして、間違って筧さんが乗っていっちゃったのかも!」
どうしよう、と口元をおさえる。
「・・・まずいぞ、今日のコースは坂が多い。のぼりはいいが、下りだと危険だ。」
「っえ?いつものコースじゃないんですか?」
「ああ。試合が近いんでな。少しコースを変えてみたんだ。」
理子にも予想していなかった事態が起きてしまった。
彼女はいつもの坂がない普通のコースだと思っていたようだ。
少しだけ心臓がドキリとした。


