ピキ、とその場の空気が凍りついたような気がした。
理子は笑顔だが、どこか違和感がある。
彼女の表情はありえるわけがない、と言っているようだった。
「・・・佐々木さん?」
海は戸惑いがちに問いかける。
「え、ああ、そうだったの。じゃあ、臨時マネージャー頑張ってね。
でも、停学中のあなたが合宿に参加しているって部員にバレると騒ぎ出しそうだから
一応遥くんの従姉ってことにしといてくれない?同性同名ってことでいいから。」
その容姿じゃ誰もわかんないでしょ、と、
少し焦ったような表情で早口で理子は言うとバスへと乗り込んだ。
それもそうかもしれないと海は思い、自分が遥と同じクラスの筧海だということは
言わずにいることにした。
「海ちゃん、行こう。」「海、早く来いよ」
「あ、うん。」
冬樹と遥に声をかけられ、海は小走りで二人の元へ向かった。
「お、全員そろったな?」
バスに全員乗り込んだのを確認した顧問の八木が運転手にお願いしますと頭を下げた。
海はマネージャーの仕事について理子に教わるために
彼女と席に座った。
冬樹は力仕事を任されるらしく前の方で八木に説明を聞いている。
遥とも席が遠くなってしまった。
少し残念に思いながら理子の説明に耳を傾ける。
「まずは、練習場の掃除。
それから防具を磨くの。で、休憩時間にはドリンクの用意。
夜にはその日に練習で使用した衣類を洗濯したり、
今日の練習の事で部員にアドバイスしたり。
まあ、詳しいことはその場で言うわ。」
「は、はい。わかりました。」
「あのさあ、一応同級生なんだから敬語やめてよね。」
「うん、わかった。」
海がそう答えるとハァとため息をついた。
部員達は見たこともない臨時マネージャーの美貌と存在が気になっていたが、
冬樹や遥の無言の圧力があり彼女に話かけることができないでいた。


