「・・・財布、ぬすんで・・・。」
「それ、本当にお前がやったのか?」
海は戸惑いながら、そして遠慮がちに頷いた。
「嘘だろ。」
「っ、」
海は声を詰まらせる。動揺していた。
「海、何があった?」
もう一度遥は聞いた。
「・・・。」
何も言わず、涙をこらえて押し黙る。
「海!」
「は、遥には、関係ないでしょ!」
「え?」
目を見開いて姉を見る。
今まで、彼女が反抗したことはなかった。
それなのに、力強い目で自分を見て声を張り上げた。
「っ、ほっといて。」
表情と態度が真逆だった。
海はおもむろに立ち上がり、リビングを出ていく。
「・・・。」
遥はもどかしい気持ちにイライラした。
「んだよ、アレ」
自分が馬鹿みたいに思える。海の言動に動揺して、今日だって喧嘩して、
彼女がほしくて、でも、忘れたくて。
「クソ、」
ガン、と壁を殴った。
思っていることと行動が矛盾している。
自分でもわかっていた、なのにどうすればいいのかわからない。
「っ・・・。」
無性に悲しくなった。
じわり、と涙が浮かぶ。
「馬鹿うみ、」
乱暴に袖で目を擦ると、はあ、とため息をついた。


