更衣室で体操服から着替え、
教室に戻ると、先に戻っていた海が自分の席に座っていた。
先ほど顔が見えるように止めてやったピンはいつのまにか外されていて、
いつもの暗い、地味な彼女に戻っている。
それに気づき、遥は内心イライラした。
(なんでとったんだよ、海のやつ)
「あれ、地味子髪短くなってね?」
異変に気付いた健二は うわー、 と声をあげる。
「本当だね、女子にやられたのかな?」
冬樹は明るい口調で言った。
彼は何を考えているのかわからない。
遥はなるべく冬樹とは関わらないようにしようと思った。
「もしかして、斉藤さんたちにやられたんじゃない?」
「あたし見たよ、更衣室で 地味 の髪の毛つかんで、ハサミで
切ってたところ!」
「よくやるよねー、でも、いい気味って感じ。」
女子たちのひそひそ話を聞いて、
遥の機嫌がより一層悪くなった。
二限目開始のチャイムがなり、それぞれが自分の席につく。
「・・・おい、」
遥は前の席にいる海にだけ聞こえる声音で話しかけた。
「言われっぱなしでいいのかよ」
「・・・。」
海は返事もしないし、反応もしない。
だか、少しだけ肩が震えている。
「・・・ハァ。今日の放課後、美容室な。
その毛先がそろってない髪形じゃ、ダメだろ。」
こくりと海が小さくうなづいた。
それを見てから遥は教科書を開く。
(・・・。)
その様子を、冬樹が見ていたのは誰も知らない。


