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真夜中。
家族全員が寝静まった頃。
海は意を決して鞄を肩にかけ、震える手でそっと玄関のドアを開けた。
「・・・っ、」
今までためてきたお小遣いは全部持ってきた。
これから住み込みでバイトして、お金を貯めて、
一人で生きていく。
滅茶苦茶になってしまった日常生活から、
逃げ出したかった気持ちもあるのかもしれない。
「・・・本当に、行くのかよ。」
背後から聞こえた声に、海は振り向かずに言った。
「、うん。」
息が詰まりそうだった。
振り向きたいのに振り向けない。
きっと、振り向いてしまえば遥の傍から離れたくなくなってしまう。
「そっか。」
引きとめてほしい。
けど、引きとめてほしくない。
矛盾した感情が溢れる。
「じゃあ、さようなら。」
海は小さく呟いて、そのまま歩き出した。
本当にこのまま、
行かせてしまってもいいのだろうか。
(・・・もう、後悔したくない。)
「っ、!」
やっぱり、このままじゃ駄目だ。
彼は、衝動的に家を飛び出した。


