しかし、自分の想いを無かったことにできるほど
理子は弱くはなかった。
「遥君の好きな人は筧さんでしょ?」
「・・・うん。」
こくり、と頷いた。
隠す気はないらしい彼に、理子は嫉妬心でいっぱいになる。
「あたし、バスの中で聞いたんだけどさ・・・」
次の瞬間、思いがけない言葉が出た。
「筧さんから聞いたの。
あの子、冬樹君の事が好きみたいだから合宿中に告白するって・・・
遥君が、筧さんを好きだってわかってたから言おうか迷ったんだけど、」
ごめんね、と理子は謝った。
「それ、本当か?」
「うん。」
理子の言葉に遥の心が一気に乱れ、不安になる。
「そ、か。前から冬樹の事が気になるって言ってたしな。」
嘘を堂々とつく理子に、遥は騙されていた。
理子は、体制を整えてベッドに座っている彼の方を向き身を乗り出した。
「あたし、遥君が傷つくところ見たくない。」
真剣な表情で、はっきりと告げた。
その発言に遥の頬が少しだけ赤く染まる。
「い、いきなりなんだよ、」
だんだんと迫ってくる理子の肩を掴んで止めた。
「好きなの、」
声が震えていた。
結果が分かっている。けれど、言わずには居られなかった。
遥は多少は驚いたが、理子を真剣な表情で見る。
「俺は・・・。」
どうすればいいのかわからなくなった。
小さく、 ごめん と謝る彼に理子は一筋の涙を流す。
「・・・うん。わかってたよ。」
無理やり笑顔を作る理子に、遥は胸が痛む。
「最後に、こうさせて。」
ぎゅ、と震える手で彼の背中に腕がまわされた。
初めは戸惑ったが、遥は何もせず彼女を受け入れた。


