優美はもう一度、唇を俺の口元に当てた……

「お願い……ゆっくりでいいから、わたしを見て……。わたしは優美。どれだけ掛ってもいい、だから、ちゃんと、わたしを……見てよ……お願いだよ……。わたし、ずっと側に居るから、絶対居なくならないって約束するから、だから……わたしを、道具にしないでよっ……雫!!」

 道具……俺は優美の事をそんな風に思っていたのか?
 そう、なのかもな……
 優美が言うんだ。少なくとも、優美はそう感じていたんだろう。

「……こんな俺でも……まだ、側に居てくれるのかよ……」

「あきらめない。……雫がわたしをちゃんと見てくれるまで、ずっと居る。だから、雫も約束してよ……わたしをちゃんと見るって、言ってよ!!」

 なんでだ、泣かせてるのは俺なのに、泣いている優美を見るのはやっぱり嫌だ。
 やっぱり?
 そういえば……嘘を吐く時も、優美の嫌な顔を見るのが嫌だった。
 どうしてだ、どうして俺はそう思う?
 こんな最低な事をしてんのに、どうして俺はそんな風に思うんだ。
 俺は一体……なんなんだ?
 この矛盾する心と心は……一体、何なんだ!?

「見るよ。優美の事、ちゃんと見るよ……だから……泣かないで……」

「……雫も、泣いてるよ……?」

「……そっか、そうだったな……」

 やっぱ、プレゼント……渡せないよ、文歌。
 
 4月1日。この日、俺が優美にあげれたのはファーストキスだけ……
 プレゼントは机の引き出しの奥に隠した。
 いつか……ちゃんと渡せる日が来るのだろうか?
 優美と向かい合って、誕生日おめでとうって、言える日が来るのだろうか?
 きっと、それは……今の俺には解からない、明日よりもっと先の事だろう。


 この日……優美と幼なじみの関係を止めた日から……
 俺の中で、優美に対する何かが変わった。
 優美の事を考えると、頭の奥底で何かに引っかかる感じがするようになったのは。
 なにか……俺が優美の事を思うのを拒むような、そんな感じの感覚をだ……
 それもきっと、今の俺には解からない事だった……