「……帰るわ」

「え?」

 文歌は突然、怒ったかのように立ち上がり、俺を睨みながら帰って行こうとする。

「おい、どうしたんだよ?」

「……雫……嘘ついたって、優美は傷つくだけよ」

 呼びとめても、帰り際に一言だけ言葉を言って、文歌は帰ってしまった。

「なに、怒ってんだアイツ?」

「……わかんない」

 優美も未だ俯いたまま。

「ごめん。俺、何か悪い事、言ったか? だったら、謝るよ」

「……ううん。なんでもない。へへ、ごめんね」

 顔を上げた優美はさっきの笑顔に戻って、再び、文歌に食べられたパフェの残りを頬張り始めた。

「よかった……」

 なんだか、訳が解からないが、それ以降、優美はいつもどおりに戻ったから、安心した。


 この日以降も、俺は暫くの時間を皆と過ごし続け……
 優美とは幼なじみとしての関係を保ち続けながら、日々を送った。
 母さん、父さん、優美、文歌。
 戻って来たものと新しく手に入れたものは、俺に希望をくれる。
 母さんは俺に優しい。それは昔から知っている事で、今までの絶望の孤独を、全て洗い落としてくれるようだった。
 でも、それは、俺と母さんに共通の思い出があったからだ。

 だから、行き違いの思い出を持つ俺は……
 時間を重ねるたびに、優美とどこか、憤りを感じるようになっている気がした。