「それでね、雫はわたしを守ってくれたんです!! ……かっこよかったんですよ」

「そう? けっこうボコられてたわよ?」

 俺が事の顛末を母さんに話す暇も与えず、優実は母さんに公園での出来事を説明する。
 ところどころ、イラッとくる文歌の突っ込みも入ってはいたが……

「そう、大変だったのね……でも、無事でよかったわ」

 母さんは大方の事を理解してくれたようだ。

「偉いわ、雫。必死に、優実ちゃんを守ったのね」

 説明を聞いた母さんは俺の頭を撫でながら微笑んだ。
 こうやって頭を撫でられるのも、久しぶりだ。
 けれど、俺は未だに優実を助けた理由が解からない。
 本当は放っておこうと思ったのに、どうして、俺は優実を助けに行ったのだろう?

「ありがとう。本当に嬉しかったよ、雫」

 目の前に居る優実と言う名前しか知らない、女の子なんかの為に、なんで俺はボロクソになったのだろう?
 
「皆、色々あって疲れたでしょう。おばさん、今日は鍋にしたから、沢山食べてね」

「やったー、わたし、お鍋大好き!!」

 やっぱり、考えたって解からない。台所から母さんが持って来た鍋を見てはしゃいでいる優実。まるで、それは子供みたいだった。
 まあ、頭を撫でられて嬉しい気になった俺も、人の事は言えないけどな。

「どうしたの、雫?」

「いや、何でもないよ」

「ちょっと、早く席に着きなさいよ。わたし、お腹すいたわ」

 でもまあ、皆で鍋を囲み……

「「「いただきまーす!!」」」

 こうやって、皆でご飯を食べられるのなら別にいい。
 俺はこの、無くしてしまったモノが戻った世界を生きていく。

 そうやって、俺は新しい日々を送り始めたのだった……