もうすぐ、『母さん』がいる家につくという時だった。
傷だらけの恰好の文歌は優実の家の鍵を借り、「先行くね!」と真っ先に優実の家へと入って行った。
どうも……優実が俺と二人きりで話があるらしく、気を使ったらしい。
「……ごめんね、痛いよね……」
「……別に。それより、言いたい事があるなら早く言え」
その場に立ち止まり、雫は優実を見る。
「雫は、雫だよ。私の知っている、優しい雫」
コイツは何を言っているんだ?
「雫は世界でたった一人だよ。昨日から、雫は自分が雫じゃないみたいに言ってるみたいだよ?」
それは、そうだろう。だって、俺は……目の前の優実という幼馴染など知らない。
「あのね……雫、おばさんが昨日、ずっと泣いてたの知ってる?」
「え……?」
おばさん。優実の言うその人は『母さん』という人の事だ。
「昨日からの雫は……なにか、すごく寂しくて、悲しそうだった。だから、おばさん、ずっと気に病んでて……ううん、おじさんも、わたしも……すごく心配したんだよ」
悲しい? 寂しい? 俺が?
「ふざけんな!! 俺は寂しくも悲しくもな……い……」
そうさ、今まで、一人で生きてきて……
そう思った時、優実の場所に行く前、おもわず『母さん』という人に吐きだしたセリフを思い出してしまった。
俺は……寂しかったのか?
「そんな……そんな訳無い!!」
「……雫は一人じゃない。どんな事があったって、わたしは一緒にいるから!! だから……」
優実は何かを言いかけて、俯いた。
「なんだよ?」
「ううん。はやく、戻ってあげて、おばさんが……雫のお母さんが心配してるよ」
優実はそういうと同時に自分の家に走って行ってしまった。
もう、訳が解からない……
でも……雫は雫。そう言われた時、どこか心が……
和らいだ気がした。

