壁をなぐった手の痛みから、これは夢ではない事はとりあえず解る。
 なら、どうみたってこの状況は不自然で危ない。
 騒いだ振動で崩れた漫画の山を退かし、壁にかかった制服を手に取った。
 とにかく、一刻も早く、この知らない場所から出ようと思ったからだ。
 見覚えのない時計が未だ登校時間の遥か前を射していたがそんな事はかまっていられない。
 けど、そんな俺の考えとは裏腹に、制服を着て部屋の扉を開けた時、足が止まった。
 目に映ったのは見た事のない階段……此処は一軒家の二階だったのだ。
 だが足を止めた理由はそれじゃない。
 階段の下から昇ってくる、食べ物の匂いとテレビの音。そして……

「あなた、朝ごはんできましたよー」

「おお、今行くー」

 誰か知らない人間の話声が聞こえたからだ。